アドニス

ジャン・モニエ、《アドニスの死》
猪に殺されたアドニスの死を見ているウェヌス

シュヴェルニー城(le Château de Cheverny)の二階にある暖炉で展示されている、ジャン(Jean)()モニエ(Monier)画家が描いた《アドニスの死(la Mort dAdonis)》を表れる絵画がある。
描かれている場面の元に、ローマ帝国時代に生きたラテン語で書いた作家のオウィディウス(Ovidius)による、一番有名な作品である『変身物語(Metamorphoseon)』の第10巻の一部として知られている文書である。
ウェヌス(Venus)の愛にさらされたアドニス(Adonis)の悲劇的な死が語られている。
ご参照ください!


アドニスの死

708 彼女は、このように忠告すると、白鳥たちに引かせた車で、
空を渡ってゆく。 が、若者の勇気が、この忠告に逆らうのだ。
たまたま、犬たちが、猪のまぎれない足跡をつけて、 ねぐらから追い出した。 そして、キニュラスの血を引く若者は 森から出ようとしているこの猪を、斜め横から、槍で貫いた。
荒々しい猪は、すぐに、みずからの血で染まった投槍を、そり曲がった鼻づらで 払い落した。 うろたえて、無事に逃げおおせようとしている相手を 追うと、そのまたくらに、根元まで牙を突き立て、 瀕死の傷を負った若者を、横色い砂のうえに打ち倒した。
ウェヌス女神は、軽やかな車に垂って(なか)(そら)を分けていたが、 羽ばたく白鳥の翼にもかからわず、まだキュブロスには着いていなかった。
遠くから、瀕死のアドニスの呻きを聞きつけて、 720 白鳥たちをそちらヘ向けた。 そして、息絶えようとしながら、
みずからの血のなかで身もだえしている彼を見ると、 車から跳び下りた。 着物の腕元を引き裂き、髪をきかむしって、
思いもかけずに胸を打ちたたく。
「運命」の神々に文句をつけて、こういった。
「でも、すべてがあなたたちの力に 屈するというわけでもないのです。 アドニスよ、わたしの悲しみの思い出は、
いつまでも残るでしょう。 あたたの死にざまは、くり返し、舞台にのせられて、 年ごとに、わたしのこの嘆きを再現させてくれるでしょう。 いっぽう、あなたの血は、花に変わるでしょう。 むかし、冥界の女王プロルピナは、 ある女のからだをかんばしい薄荷(はっか)に変えることが、 キニラスの血を引く英雄を変身させようとすることには、けち(、、)がつけられるのでしょうか?」
こういうと、 若者の血に、かおり高い神酒(ネクタル)をふりかけた。 血は、神酒(ネクタル)に触れると、 ふくらんでいた。 それは、たとえば、横色泥から 透明な泡がわきあがって来るさまをおもわせる。 そして、一時間も経たないうちに、
血のなかから、同じ色の花が現われた。 (きょう)(じん)な皮の下に種子を隠し持っている、あの(ざく)()が着ける花にそっくりだが、
しかし、その花を覚でる期間は短かいのだ。
花の付き具合が悪く、軽すぎて落ちやすいために、
739 アネモネというその名のもとになっている(アネモネ)が、これを散らすからだ。

オウィディウス、変身物語、第10巻末、708~より

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