フロラ

ヴェルサイユの大トリアノン宮殿にある、ジャン・ジューヴェネ、《フロラとゼフィルス》絵画
フロラに花の連なりの籠を差し出すゼフィルス

大トリアノン宮殿(le Grand Trianon)に展示されているジャン(Jean)()ジューヴネ(JOUVENET)が描いた「フロラ(Flore)(et)ゼフィルス(Zéphyr)」絵画が「涼みの間(le Salon Frais)」に見られます。
川沿いで、花の冠をかぶせようとしているひとりの天使や身を清めている妖精(ニンフ)たちが近くに、何ともいえない春が漂う雰囲気なかで、西の(そよ)(かぜ)である羽が付いている男のひとゼフィルス(Zephyrus)は、美しい女の人、フロラ(Flora)に花の籠を差し出しています。
この部屋のために1688年ルイ(Louis)十四世(XIV)に注文されたこの絵画は、ローマ皇帝文学作家オウィディウス(Ovidius)が著わした「祭暦(Fasti)」にある文書から、史料によって知られています。
祭暦」において、オウィディウスローマ(こよみ)を季節に応じて、天文や農事に関する行事や祭りを描きながら、自らを暦に司る司祭として自己言及し、あれこれ語るため、神々に直接お話しを聞くという文学的仕掛けが用いられています。
フロラが登場するこの第5巻ともなっている、同時に5月に当たる以下の文書でも、オウィディウスが女神に直接話しを掛けながら、始まっています(183~192行)。
彼はまず彼女自身と彼女を記念する4月末と5月の頭に行なわれるフロラリア(Floralia)祭りについて情報を求めている。
絵画で表されている場面と直接な関係が視覚的に見えないのに、女神の魅力と神秘の意義、またジャン・ジューヴネの表しをより把握する為に役に立ちます。 それで、フロラは、答えとして、自分を「クロリス(Chloris)」と名のる至福者たちの島出身、ゼフィルスを戸惑う美しさを持つ妖精(ニンフ)のひとりとして同一視しながら、自分を紹介しています。
彼は彼女を誘拐して、自分の嫁にさせて、そして女神として、花の主権を与えられたことも語られていると同時に(193~222行)、フロラが伝統的に、春、美しさ、活気に満ちたホラ(Hora)神女たちカリス(Charis)神女たちに囲まれている姿が表されていることになります。


フロラとゼフィルス

183 「お花のお母さま、来て下され、喜ばしい遊びであなたを喜ばせましょう。

「花の母なる女神よ、おいで下さい。
愉快な祭りでお祝いしましょう。
私はあなたを歌うときを先月から遅らせていました。
あなたの祝祭がアプリリウス(Aprilius)に始まってマイユス(Maius)にまで及ぶからです。

先の月では月の終わり際に、のちの月では月の始まりとともに、あなたの祝祭があります。
月と月の境があなたのためにあり、あなたに捧げられているのですから、2つの月のどちらもあなたを讃えるにふさわしいのです。

189 「競技も、観客席の喝采(かっさい)が決める勝利の冠も今月のことですから、この歌のことですから、この歌も競技場の催しと進行を同じくしましょう。
どうか、あなたがどのような女神か、御自身で教えて下さい。
ひとびとの考えは当てになりません。
御自分の名前を説明されるのはあなた御自身が最適ですから」。

193 このようにわたしが申しますと、私の問いに女神はこう答えました。
女神が話すと、口からは涼しい()()()(ぶき)が洩れました。

195 「いままでこそフロラと呼ばれる私も、かつてクロリスと言っていました。
私の名前にあるギリシャの字がラテン語での発音によって害われることになって、私は、至福者たちが昔暮らしたといわれている恵まれ諸島の妖精(ニンフ)のでしたもの。
私の容姿がどのであったかなど、おこがましくてとても話せませんが、母が神様の婿殿を見つけて下さったのはこの容姿のためでした。

201 「春のこと、そぞろ歩きをしている私がゼフィルスの目に止まりました。
私は引き返そうとしました。
が、ゼフィルスは追いかけて来ます。
私は逃げます。
けれども、あちらの力のほうが強いうえに、兄弟のボレアス(Boreas)の前例があるので、娘をさらうのは天下御免であったのです。
ボレアスはなんとエレクテウス(Erechtheus)の家から獲物を持ち去ったのでした。

205 「とはいえ、力ずくでしたことの償いに、彼は私に正妻の名をくれました。
今この結婚に私はなんの不平もありません。
私はいつも春を(おう)()しています。
いつでも一年でもっとも輝かしい季節、木々には葉が繋がり、大地はいつも牧草がおおいます。
そして野には私の婚資である実り豊かな庭があります。
そよ風が(はぐく)み、泉から湧く澄み切った水が(かん)(がい)しています。
私の夫はこの庭を優雅な花で満たし、「女神よ、花の主権を」と言ってくれました。

213 「何度も私は、いったい何色あるのかと、並んだ花を数えたいと思いましたが、出来ませんでした。
数が及ばないほどたくさんだったのです。
朝露の滴が葉からこぼれ落ち、色とりどりの草花が陽の光に暖かめられるや、ただちに(いろどり)鮮やかな衣を身にまとった季節神女ホラたちが集まり、私からの寄付を籠に摘んでゆきます
それにすぐさま優雅の神女カリスたちも加わって、冠を編み、編んだ冠を自分の神々しい髪に結ぼうとします。」

オウィディウス、祭暦、第5巻より


註釈


フロラ

フロラ(Flora)の名とは?

発音

正式には、ラテン語では長母音があるため、「フローラ(Flōra)」という名前ですが、一般的に、長母音を略する「フロラ」と表記される。

由来

フローラ(Flōra)は、「(Flos)」(発音:フロス)が活用された言葉に当たって、「(はな)」とう意味を示しています。

女神として

フロラとは?

フロラは、農業生産を見守るローマ宗教の多く存在する女神の一つです。
母神(mater)」の副名もあって、よくまた豊穣神とも見なされることがあります。
1770年にイタリア中部、ローマ郊外の東、プラエネステ(Praeneste)に発見されたローマ暦を紹介するローマ皇帝時代の跡に書いているとおりに、「一般的にものを咲かせることに司る」春女神としてと、定義されています。

古代ローマ帝国でのフロラ祭儀

ローマ市内に神殿がありました。クィリナリス(Quirinalis)上に位置付けられていた。
毎日に祝福の祭儀はが神殿に「フラメン(Flamen)()フロラリス(Floralis)」という固有の神官だったフロラ司祭の一人から捧げられていたことも知られています。
一年一回、「フロラリア(Floralia)祭り」もありました。



クロリス

クロリス(Chloris)の名とは?

発音

正式には、古代ギリシャ語では長母音があるため、「クローリス(Khlōris)」という名前になりますが、古代ギリシャ語からラテン語まで書き写すと、「Kh」が「Ch」に交代されることがあるのと、一般的に、長母音を略されているため、「クロリス」と表記されるようと変わります。

由来

古代ギリシャ語で、Khlōrís(Χλωρίς)(発音:クローリス(Khlōris))と書いて、Khlōros(χλωρός)(発音:クローロス(Khlōros))語幹から出来ていて、「(みどり)」と意味を表しています。
同じ語幹から、「Khlôrophyll(χλωροφύλλη)」(発音:クローロフィル(Khlōrophyl))があって、日本語の「クロロフィル(Chlorophylle)」に当たる(よう)(りょく)()を指しています。

クロリスとは?

「クロリス」という名前は、ギリシア神話では、ある妖精(ニンフ)の女性に当たります。
祭暦」においては、オウィディウスが、フロラを、クロリスという妖精(ニンフ)と折角同一視させているのは、クロリスという語幹に「(みどり)」、いわゆる、「一般的にものを咲かせることに司る」意が含まれているからでしょう。



フロラリア祭り

フロラリア(Floralia)祭りの名とは?

「フロラリア」という祝祭は、田園ののどかな祭りとして始まったフロラ女神の祭りです。

日付

オウィディウスが「祭暦」を作文する紀元後1世紀前半時代だと、4月であるアプリリウス月の28日から、5月であるマイユス月の3日までの5夜間で行なわれていた。

概要

追いかけや、舞踏や身ぶりや悲劇的な演出が行われていたため、「フロラリア」は「花の祭典(Ludi Florales)」とも呼ばれていました。
ローマ舞踏のなかで、フロラのために出来た舞踏は、一番印象的だったといわれています。
元々、春の戻りで若者たちが喜びを表現することで、単純でしたが、そこから、全裸で性的行為のものまねにまで変わることがあって、不道徳性が指摘されることが出ました。

場所

追いかけは町市外に、「フロラの競技場(circus)」と呼ばれたウィミナリス(Viminalis)庭園の丘 の間に位置づけられている小谷があった特別な競技場で行われていた。



ゼフィルス

ゼフィルス(Zephyrus)の名とは?

発音

ゼフィルスはラテン語での名前で、日本語の書き写しでは、古代ギリシャ語での呼称である「ゼピュルス」と発音するようになりましたが、ラテン語では正式な発音は、「ph」で「f」と同音のため、同時に、オヴィディウスはラテン語で書いていることに基づき、ここでは「ゼフィルス」で表記することにしました。

由来

名前の由来は古代ギリシャ神話からです。
古代ギリシャ神話だと、「Zephyros(Ζέφυρος)」(発音:ゼピュロス(Zephyros)) という神があります。
古代ギリシャ語からラテン語に書き写された祭、ラテン語っぽく「ゼフィルス(Zephyrus)」と書くようとなりました。

神として

Anemoi(Ἄνεμοι)(発音:アネモイ(Anemoi)、古代ギリシア語では(複数形で)「(かぜ)たち」の意、という言葉があります。
ラテン語では、ヴェンティ(Venti)(意:「(かぜ)たち」)に当たります。

ギリシア神話では、主要な風は4柱いる。ゼフィルスの他だと:

それにたいしては、ゼフィルスは西風の神で、最も温和なゼピュロスは、春の訪れを告げる豊穣の風として知られている。

ゼフィルスとは?

祭暦では、オウィディウスによって、ゼフィルスは翼を備えた人間として、古典的に擬人化されて、登場しています。



季節ホラ女神たち

季節女神ホラ(Hora)たちの名とは?

発音

オウィディウスの文書では、ホラはラテン語としての語です。
正式には、ラテン語では長母音があるため、「ホーラ(Hōra)」という書き写しが正しいなのに、一般的に、長母音を略する「ホラ(Hora)」で表記されている。

由来

古代ギリシャ語のHōra(Ὧρα)(発音:ホーラ(Hōra))からそのまま来ています。 ホーラ(Hōra)は単数形で、「()(かん)」との意を示しています。

神として

ホラは、神としまして、女神であって、時間の区分を擬人化を指しているのだが、普通は、各々の時間の対照性を現わす意で、複数形で、女神の交わりとして現れて来ます
オウィディウスの文書では、「季節神女ホラたち」で出て来るが、ラテン語だと、「季節神女」と「たち」の部分を省いて、ただ直接複数形が含まれている「ホーラエ(Hōrae)」で呼ばれています。
古代ギリシャ語でも、複数形を含むHōrai(Ὧραι)(発音:ホーライ(Hōrai))で同様です。 時代によって、人数が少しづつ2人から12人まで増えたことも知られています。

季節神女ホラたちとは?

祭暦」において、花を手にした優美な乙女の姿で表されて、フロラの侍女たち。



カリス女神

女神カリス(Charis)たちの名とは?

発音

古代ギリシャ語と同じく、「カリス」との発音です。

由来

古代ギリシャ語では、カリス(Charis)は動詞のkhaírô(χαίρω)(発音:カイロー(khaírô))は「愉快(よろこ)ぶ」、「生きる力の充実さ」の意を示している。 カリスは単数形で、神秘的さ、「女神」と多面性、「たち」で修飾されている。
古代ギリシャ語では、修飾部分を省いて、複数形がふくまれている「Charites(Χάριτες)」(発音:カリテス(Charites))とも呼ばれています。

神として

女神カリスたちの交わりの人数は様々で、2から16神まで知られていますが、一般的人数を明らかにしない交わりでなければ、古典ギリシャ彫刻では、「カリス三美神たち」の形態で、ローマ、後に西洋美術に伝われて来たため、主に、3神と扱われて来ましたので、以下、その3神の名前を明らかにしました。

  • Aglaeā(Ἀγλαΐα)(発音:アグライアー(Aglaeā))は(まぶ)しくさせる輝かしい美しさでの愉快(よろこ)び、
  • Euphrosynē(Εὐφροσύνη)(発音:エウプロシュネー(Euphrosynē))は(うたげ)で受けて来る愉快(よろこ)び、
  • Thalia(Θάλεια)(発音:タレイア(Thalia))は活気のありすぎる(ほう)(じょう)愉快(よろこ)びを現わしています。
神女カリス{/r}たちとは?

祭暦」において、花の冠を手にした優美な乙女たちの姿で表されて、フロラ{#flora_6に給士しています。



エレクテウス

エレクテウス(Erechtheus)とは?

古代ギリシャ語で、Erekhtheús(Ἐρεχθεύς)(発音:エレクテウス(Erekhtheús))は、神話に古代第六アテネ王として、町の元の神を指しています。

祭暦においては

以上の文書では、オウィディウスが、北風のボレアスエレクテウス(Erechtheus)の娘Ōrithyia(Ὠρείθυια)(発音:オリテュイヤ(Ōrithyia))をさらったことを思い起こさせようとしています。
オリテュイヤの誘拐は、オウィディウスが著わしたもう一つの作品である「変身物語」の第6巻、677~713行に語られています。



ノート: 「クロロフィル」と日本語の発音の書き写しは、英語の「クロろファイル(Chlorophyll)」からではなく、(よう)(りょく)()が1816年にジョゼフ(Joseph)ビヤンネメ(Bienaimé)カヴェントゥ(Caventou)によって単離されたことから、フランス語の「クロロフィル(Chlorophylle)」に従っているている。英語に従えば、発音に矛盾が避けられなくなります。


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