黄金伝説に於いての
サン=レミ
黄金伝説の第141章の文書に於いての聖レミギウス
その名前の第二番目の解釈
レミギウスは、〈船長〉ないし〈船の操縦者〉を意味するレメクスと 〈戦い〉の意のギョンとから、あるいは船を漕ぎすすめる〈櫂〉を意味するレミとギオンとから来ている。
まことに、レミギウスは、教会の舵をとり、難破の危険から救いだし、 櫂をあゃっって教会を天国にいたる門にみちびき、また教会のために悪魔の悪だくみと戦ったのである。
クロティルデとその子供たち
レミギウスは、フランク族の王とそのすべての国民を回心させて、キリスト教の信仰にみちびいたとされている。
すなわち、この王には、クロティルデという名のキリスト者の妃があった。
王妃は、なんとかして良人をキリスト教に入信させようとたえずつとめたが、その試みは、いつも徒労に終わった。 そのうち、ふたりのあいだに男の子が生まれた。 彼女は、この子に洗礼を受けさせようとしたが、王は、頑として聞き入れなかった。 しかし、王妃は、どうしてもあきらめようとしなかったので、さすがの王も、その願いをいれて、子供の受洗をみとめた。 ところが、王子は、洗礼を受けてからまもなく死んでしまった。 そこで、王は言った。
「そなたのキリストは、どうやらたいした神ではなさそうだ。 なにしろ、この子の命をとりとめられなかったのだからな。 この子を救ってくれたら、キリスト教の勢力が大きく伸びたにちがいないのに」
クロテイルデは答えた。
「これでわたくしは、自分がわたくしの神さまから特別な愛を受けていることがわかりましたわ。 神さまは、わたくしがわが身にやどした初穂をお召しになり、あの子にあなたの王国よりもずっとすばらしい無量の王国をおさずけくださったのですもの」
王妃は、ふたたびみごもり、またもや男の子を生んだ。
彼女は、この王子にも洗礼を受る許しをとりつけたが、受洗後まもなく病気にかかり、もう助かるまいとおもわれた。
王妃に言った。
「自分の名において受洗した者の命も救えないようでは、そなたの神とやらは頼りにもならぬ神だ。
この調子じゃ、そなたが子供を千人生んで、みな洗礼を受けさせたとしても、ひとりも生きのびられないことになるな」
けれども、その王子は、やがて快方にむかって健康になり、のち父王のあとをついで即位したのであった。
信心ぶかい王妃は、良人をも信仰にみちびこうとあらゆる手をつくしたが、王は、なかなかその手に乗ろうとしなかった。
怒った粉屋の人
それでも、最後には回心したのであるが、その経緯については、主のご公現の祝日のあとに置かれたこの聖人のもうひとつの祝日のくだりに述べてある。 ところで、このクロヴイス王は、キリスト信者になったとき、ランスの教会を寄進しょうと思いたった。 そこで、聖レミギウスにむかって、わたしが昼寝をしているあいだにあなたが散策なさるだけの広さの土地をさしあげましょう、と申しでた。 そして、そのとおり土地があたえられた。 ところで、レミギウスが散策するその土地に一軒の粉ひき小屋があった。 粉屋は、にがりきって聖レミギウスを追いはらおうとした。 そこで聖人は、粉屋に言った。
「そんなに気を悪くしないで、この粉ひき場をいっしょに使うことにしましょう」
しかし、粉屋は、彼を追いはらってしまった。 すると、突然、風の向きが変わって、風車が逆にまわりはじめた。 おどろいた粉屋は、聖人を大声でよんだ。
「聖人さま、どうかお戻りください。 粉ひき場はいっしょに使うことにいたしましよう」
レミギウスは答えた。
「この粉ひき小屋は、わたしのものでも、あなたのものでもありません」
その瞬間、大地がまっぷたつに裂け、粉ひき小屋をまるごと呑みこんでしまった。
レミギウスは飢饉を予告する
聖レミギウスは、あるとき、大飢饉が起こるだろうと予見して、ある村にたくさんの小麦を集めて貯蔵した。 ところが、酔っぱらった農民たちは、年寄りのとりこし苦労だとあざけって、小麦を入れた倉に火をつけた。 レミギウスは、これを知ると、いそいで駆けつけた。 そして、ちょうど寒い季節だったし、夕暮れどきでもあったので、両手をかざして火にあたりながら、いつもと変わらぬ顔つきでこう言った。
「火というものは、いつでもありがたいものだ。 だがな、こんなことをやらかした連中は、男なら、孫子の代にいたるまで女と交わる能力を失うだろう。また、その女房たちは、瘰癧病みになるだろう」
そして、カール大帝に追いはらわれるまで、彼らにこの言葉どおりのことが起こったのである。
御遺体の移居
ところで、ここで注記しておくと、におこなわれる聖レミギウスの祝日は、彼が至福なる死をむかえた日であり、今日すなわちは、聖遺体の移居記念日である。
というのは、レミギウスが死んだあと、その遺体は、棺台にのせて聖ティモテウスと聖アポリナリスの教会にはこばれたが、途中で聖クリストポルス教会のそばにさしかかると、急に重たくなって、それ以上すすまなくなった。 人びとは、やむなく主にお祈りをして、もし聖人たちの遺骨がたくさん安置されているこの聖クリストポルス教会に聖レミギウスさまをも埋葬することをおのぞみでしたら、どうかをお知らせくださいとお願いした。 すると、性遺体がたちまち軽くなって、らくらくともちあげることができた。 そこで、人びとは、性遺体をこの場にうやうやしく葬ったのである。
ところで、この教会には多くの奇跡が起こったので、人びとは、教会を大きくひろげ、祭壇の奥に地下納骨堂をこしらえた。 ところが、いよいよ聖遺体を掘りおこして、新しい墓に移そうとしたが、重くてどうしてももちあがらなかった。 そこで、夜を徹してお祈りをしたが、真夜中になると、みんな眠りこんでしまった。 朝になって目をさますと、棺は、聖レミギウスの遺体を入れたまま天使たちの手で地下納骨堂にはこばれていた。 のことであった。 この聖遺骨が銀の棺に納められ、さらに美しい地下納骨堂に移されたのは、そこから長い歳月がたった、日もおなじのことであった。 聖レミギウスが活躍したのは、主の紀元であった。